CFCL
東京
「Clothing For Contemporary Life」の頭文字をブランド名に掲げる「CFCL」。設立者でありクリエイティブディレクターの高橋悠介さんを中心として、「現代生活のための衣服」の探究がなされています。ブランドコンセプトのもと、旗艦店を始めとする一部の店舗什器として活かされているのが、USMハラーです。
高橋悠介さんが自身のブランド設立を考えたのは2019年。エシカルファッションの重要性が社会に広まるなど、様々な角度からファッションをとらえる必要がある社会状況のなかで、社会の課題に向き合い、必要とされる衣服づくりを包括的に行っていきたいと、2020年に「CFCL」(シーエフシーエル)」を始動させました。
「一度も袖が通されることなく廃棄される服が大量に生じている状況など、ファッション業界の現状があります。こうした時代に新たにブランドを立ち上げるには、デザイナー個人の美意識を共感してもらえる人々に届けるといった従来のビジネスモデルとは異なるものにしたいと考えました」
一貫して取り組んでいるのが3Dコンピューター・ニッティング。高橋さんはファッションデザインを学んでいた学生時代から、ニットによる衣服の可能性を探り続けています。
「ニットはカジュアルウエアの歴史が長く、オケージョンのためのドレスは従来の市場にほとんどありませんでした。しかしそれだけに可能性があると私は考えています。CFCLの強みは、縫い目をもたずに着心地の良い服を実現できる無縫製のホールガーメントニット。糸の研究、開発に始まり、コンピュータープログラミングニットの技術を用いています」
独自の立体感のあるニットのデザインは、糸をセットし3Dプリンターのように出力するコンピュータープログラミングが活かされてのこと。この技術は裁断を必要としないため、製作過程での廃棄量をほぼ出すことのない衣服づくりが実現されてもいます。CFCLでは再生ポリエステル素材を中心に、オーガニックコットンやキュプラなどの認証取得素材を9割以上も活用。環境に配慮した視点とともに、家庭用洗濯機で洗うことができシワになりにくいなど、現代生活の快適さが追求された衣服となっているのです。
ブランド独自の視点を広く伝えることになった展示のひとつが、2022年1月、渋谷パルコで開催されたポップアップ・イベントでした。この時に用いられたのが、USMハラーを独自に組み合わせた什器です。幅750ミリ、奥行き500ミリ、縦1790ミリのユニットを連結して使用。奥行きの中央部に設けられたチューブに衣服が掛けられ、バッグなどの小物類は透明ガラスのパネル上に並べられました。
渋谷パルコでのポップアップ(2022年1月)
「USMハラーのファンで、自宅でもキャビネットを愛用してきた」と語る高橋さんは、「いつか会社を立ち上げる時には、USMハラーを用いることを決めていた」といいます。「長く用いられている家具には独自の佇まいがあります。以前に目にした写真で、1969年に開業したロスチャイルド銀行パリオフィスが記憶にありました。USMハラーのワークステーションが配置され、50年以上も前の光景であるというのにとても新鮮でした」
そのうえで、ポップアップイベントでUSMハラーを選択した背景として、CFCLの服づくりの姿勢と切り離すことのできない強い想いがあったことを語ってくれました。
「ポップアップでは開催される空間をふまえた什器をその都度製作しないとなりません。開催後には保管場所の確保が難しいこともあり、廃棄されているのが一般的です。このように製作と廃棄を繰り返すことは今の時代に適していないのではないかと考えていました。USMハラーであればイベント什器とした後に運搬し、組み替えて使用できる。さらに次のポップアップの場に導入することもできます」
CFCL OMOTESANDO(2022年10月オープン当時の内装)
2022年10月には、コレクションの全ラインナップを紹介する旗艦店となる直営店舗の「CFCL OMOTESANDO」が表参道GYRE内にオープン。「ポップアップイベントで使用したUSMハラーをベースに空間を構成する」という高橋さんのイメージが、店舗デザインを託した一級建築士事務所のMMA Inc.に伝えられました。
CFCL OMOTESANDOはほぼ正方形の119㎡の空間です。ブランドカラーとしているブルーグレーを思わせる淡い色彩のコンクリートの空間には、USMハラーによる什器が整然と並べられています。
「表参道店の準備をするなかで考えたのは、プラクティカルであると同時に主張しすぎることのないアレンジが可能となるUSMハラーの特色でした。基本構造のみのシンプルな使い方ですが、それだけで空間がきちんと立ち上がってくることを実感したのです。パーツ自体に品格があるので、作り込みをする必要はありません」
接続のためのコネクタがスティールチューブ内部に納まり、視覚的なノイズをもたらすことなくモジュールシステムが展開できる点にも高橋さんは触れ、「衣服づくりも共通する点」と語ります。「その人が美しく見えることをサポートするのが衣服であり、服だけが目立ってしまったり、顔や身体とのバランスが崩れてしまってはいけません」
「CFCL OMOTESAND」では、壁一面の印象的なヴィジュアルを始め、空間の表情が定期的に変えられていることも大きな特色です。「実験的な場」と高橋さん。コレクション発売時におけるシグネチャーピースの展示ではフレーム自体を大きく組み直し、アーティストとのコラボレーション企画の際にはキャビネット機能を追加するなど、目的やシーンに合わせて手が加えられているのです。
CFCL OMOTESANDO(2024年5月)
「CFCL ROPPONGI」(東京ミッドタウン)や「CFCL HANKYU MEN’S OSAKA」(阪急メンズ大阪)でも、ポップアップ・イベントで用いたパーツを組み替えて使用している様子を目にすることができます。2023年春に伊勢丹新宿本館で行われたポップアップ・イベントでは、フレームの延長線上に特設のフィッティングルームが設けられていました。来店者には建築やデザインの専門家の姿もあり、展示デザインそのものに対する高い関心も寄せられたといいます。
CFCL ROPPONGI
CFCL HANKYU MEN'S OSAKA
伊勢丹新宿本館でのポップアップ(2022年7月)
2022年からパリ・ファッションウィーク(パリコレ)に参加し、今年(2024年)春にはパリコレ公式ランウェイ枠でのショーを実現するなど、躍進ぶりに注目が集まるCFCL。今年初めには生産体制でも新たな一歩を踏み出しています。
「『CFCL Knitting Lab.』を都内に設立しました。ニットはプログラミングの時間が必要で、複雑なデザインのドレスとなると一着のプログラミングに1週間ほどの時間が必要となります。また、布帛の縫製工場とは異なり、通常の量産ラインを止めてサンプルを制作しないとなりません。取引工場の負担を軽減すると同時にクリエイションの可能性を探る拠点となるのがこのラボです」
「ホールガーメント機の活用でアイデアをその日のうちに試作し確認できるようにもなり、素材やカラーバリエーションの研究も積極的に行えるようになります。今後は既存の生産工場に自社での小ロット生産体制を加えることで、CFCLならではの新たな表現やサービスの可能性を探っていくことを考えています」
CFCLは2022年7月、社会や環境に対する配慮に優れた企業に与えられる国際認証制度となる「Bコーポレーション(Benefit Corporation)」において、日本のアパレルブランドでは最初となる認証を取得しています。生産拠点から店舗の展示方法に至り、ぶれることなく企業姿勢が貫かれていることがうかがえます。
CFCLでは現在、新たなオフィスの準備が進められています。
「ポップアップで使用してきたUSMハラーにパネルや引き出しを追加するなどして、オフィス用に構成する予定です。納得できるものを繰り返し用いることの重要性を感じているので、ライフスタイルにあわせたアレンジでアップデートができるモジュラーシステムを、さらに活用していきたいと考えています」
未来へと続く今日の生活において共感できるプロダクトを活用していくことや、生まれ出る造形の美しさを日々の生活で楽しむこと。その根底にあるサステナビリティの視点。「現代を生きる人々の道具としての衣服」づくりに取り組む高橋さんの言葉を通して、CFCLとUSMハラーに通底する視点がさまざまに浮かび上がってきます。