瑞聖寺の和尚様が選ぶ家具

白金台/東京

東京・白金台にある瑞聖寺の境内に足を踏み入れると、歴史あるお寺としては意外な風景が広がります。1757年に建立され、国の重要文化財に指定されている大雄宝殿(本堂)を引き立てるように、洗練された現代建築の庫裏が視界に入るからです。この建物を手がけたのは、日本を代表する建築家の隈研吾氏。瑞聖寺住職の古市義伸さんが、その成り立ちを説明します。

「東京大学の安田講堂を設計した岸田日出刀先生のお宅が檀家だったこともあり、東大で教授を務めていた隈先生に設計を依頼しました。和の要素をモダンに取り入れた根津美術館のようなお仕事を見て興味をもっていたのです。」


木を多用した瑞聖寺の庫裏は、水盤を囲むように控えめに配置され、大雄宝殿の荘厳さを際立たせています。

「お寺は、その時代に生まれたものを歴史の一部として未来に伝えていく役目を担ってきました。それは建物も、ここで用いる家具も、奉納されるアートも同じこと。瑞聖寺には350年の歴史があり、昔の仏像や調度品が受け継がれています。」


住職の古市さんは、そう語ります。隈研吾氏による庫裏も、ただ美しいだけでなく、素材や仕上げの一つひとつこだわりがあります。その内部に置かれた家具も、長く使い続けられるクオリティをそなえたものばかり。そんな古市さんが、5年ほど前にガレージを改修した時に手に入れたのが、USMハラーの収納家具でした。

ガレージは瑞聖寺の境内にあり、室内はすべてグレーや黒を基調に設えられています。一方の壁際にあるUSMハラーのガラスショーケースには、古市さんが入手してきたアートの数々をディスプレイ。もう一方の壁は3つの窓を邪魔しないように組んだ大型のUSMハラーがあり、ファイルや資料などの収納用として使っています。


「クルマも映えるし、空間も映える、そして壁にきれいに収まる収納家具を探していました。リフォームの内装設計を担当したデザイナーに勧められたのがUSMハラー。男の隠れ家のようなイメージで、カラーは黒を選びました。庫裏もそうですが、シンプルで格好いいものが好きなんです。」

古市さんにとってUSMハラーの魅力は、無骨で質実剛健とした雰囲気や素材感だといいます。


「以前からガレージで使っていたツールボックスと同じ素材感です。ガラスショーケースのUSMハラーの上には、自動車のチャンバー(排気管)を掛けていたこともあるし、蛍光灯を使った東恩納裕一さんのアート作品もよく合います。」


さらに長く使い込むことで味わいが出てくるに違いないと、古市さんは考えています。

「USMハラーのように耐久性が高いものは、結局、コストがかかりません。ちゃんとしたものを手に入れて使い、ちゃんと残していくのは、ある時代まで当たり前でした。桐箪笥を削りながら使い続けるようなものです。」
-瑞聖寺住職 古市義伸

ガレージの一角には、グリーンに塗装された素朴な木の椅子が置かれています。ドイツ出身の著名な建築家、ブルーノ・タウトが1930年代に高崎の少林山達磨寺に滞在した際、農民の副業になるようにデザインしたという椅子の復刻版です。少林山と瑞聖寺は同じ黄檗宗であるとともに、タウトは互いにモダニズムの建築に取り組んだ岸田日出刀氏と交流があり、また岸田氏は瑞聖寺とのつながりがありました。すべては大きな時代の流れのなかにあるのです。

この椅子も、新しい庫裏も、そしてUSMハラーも、つくり手の真摯な姿勢と結びついたデザイン。生まれた時代や経緯は違いますが、普遍的な価値を感じさせます。瑞聖寺のゆっくりと流れる時間の中で、いずれも歴史の一部になっていくのでしょう。


(内装設計:TATO DESIGN / 販売代理店:インターオフィス / テキスト:土田貴宏)