福島RDMセンター

福島県浪江町

2023年、福島県浪江町に完成した福島RDMセンター。ここは會澤高圧コンクリートが中心となって研究、開発、生産を担う大型複合施設です。2011年の東日本大震災で大きな被害のあった浪江町は現在、新しいクリエイティブの拠点になることが期待されています。このセンターが担うのは、町に集まった多くの人々がコミュニケーションし、共創に取り組む自由なステージになること。USMハラーも、その空間をオブジェのように彩っています。

福島RDMセンターを設計したのは、會澤高圧コンクリートの副社長である會澤大志さんが設立したADAAC(アダーク)。「Aizawa Designers and Architects Collective」の頭文字から名付けられた2021年設立の設計事務所です。このセンターの成り立ちについて、會澤さんはこう説明します。


「東日本大震災の後、會澤高圧コンクリートの代表が浪江町を訪れて、津波によってすべてが1度リセットされた様子を目の当たりにしました。そして、ここが相当なものをもつ土地だと感じたんです。だからこの町を復活させ、さらには日本最先端の場所にしたいと考えた。いま、新しいことをやろうという企業、組織、研究機関などが国のサポートを受けて続々と浪江町に集まっています。そんななか、私たちは単に工場を建てるのではなく、リサーチ、デベロップメント、マニュファクチャーなどを一体にした複合施設をつくり、いろんな可能性を追求することにしました」

こうした経緯でスタートしたプロジェクトだからこそ、コンクリートを使って前代未聞の建物に挑みたい。それが、會澤高圧コンクリートが得意とするフルプレストレストコンクリートによる工法でした。「無謀な挑戦をしてしまいました(笑)」と會澤さんは語ります。


「プレストレストコンクリートでつくる建造物は、基本的にはトンネル工事など土木系の事例が多いんです。しかしこのコンクリートは高品質で強度が高く、柱のない大空間がつくれるので、多くの人が集まる建物に適しています。完成すると、目指していた教会のような雰囲気が生まれたのも印象的でした」 


おもしろいことを思いついた人が、福島RDMセンターを訪れて、この場所を自由に使う。そのための広さも設備も揃っている。會澤さんたちが思い描いた創造的な複合施設は、2023年に完成してすでに活動を始めています。

福島RDMセンターの中には、USMハラーでできたユニークなコーナーがあります。


「この建物では、いろんな人たちがアイデアをもち寄り、議論し、仕事できる場所をたくさんつくりました。その場所ごとにテーマをもたせるため、家具を使い分けています。USMハラーは、クジラを思わせる大きなソファから伸びる波しぶきのようにフレームでオブジェをつくり、カフェとして使うため一部をベンチに。USMハラーのモジュール性を利用して、ピッチが固定のコンクリートの壁面に合わせて、オブジェやベンチが空間にぴったり合うように設計しました」 


もともと會澤さんはこの家具を愛好し、ADAACのオフィスでも使用して、その特徴や可能性を深く理解していました。建築のバックグラウンドをもち、新しいテクノロジーやデジタルにも詳しいことから、立体的なオブジェの構成を自身で考えたといいます。

このスペースでは、ベンチ部分を除いてUSMハラーにパネルをつけず、あえて収納にしませんでした。


「ベンチの上に用途はないんです。『これは何ですか?』とよく質問されますが、格好いいじゃないですかと答えます。海外ではUSMハラーを使ってユニークなことをしているのをよく見かけますが日本にあまりなかったと思うので、自分たちは進んでやっていきたい。アイデア次第でどんなことでもできるんですから。そしてこうした使い方のほうが、ADAACの建築と相乗効果が生み出せる。建築が壮大なので、家具も壮大でなければ負けてしまいます」 


コンクリートの空間の中では、ベンチ部分のカラフルなパネルがいっそう引き立ちます。床材の色をパネルに合わせて配置したのも効果的です。 


「この施設にはオモチャ箱のようなイメージもあって、その感覚を反映しました。ミーティングや食事の時、何色のベンチに集まろうというふうに目印になるし、鮮やかな原色はUSMハラーらしいと思います」

福島RDMセンターの空間でもうひとつ目を引くのは、ベンチを兼ねた巨大なオブジェ「メビウス」。幻想的な作品を数多く残した画家マウリッツ・エッシャーにインスパイアされたという作品で、断面が八角形のパーツがねじれるように「∞」(無限大)の形をつくっています。これは浪江町の可能性をモチーフにしたものです。素材は半分が3Dプリントしたコンクリート、半分がファブリック。2つの素材をシームレスにつないで複雑な造形を実現するには、設計から制作まで新しい技術が求められました。特に難しかったのは、會澤さんの発想によって、輪が交差する部分でコンクリートを宙に浮かせたことです。もちろん上に人が乗っても問題ないほどの強度もそなえています。 

コンクリートの生産は、どうしても二酸化炭素を排出してしまいます。それに対して有効なのは、コンクリートの寿命を伸ばし、持続可能性が重視される時代にふさわしい提案をしていくこと。會澤さんは、USMというブランドにもそのヒントがあるのではないかと語ります。


USMの製品はとてもシンプルですが、形を変えながらずっと使い続けられる信頼感がブランドになっています。基本的にコンクリートは規格大量生産品で、ブランドとして認知されていませんが、私たちが目指しているのはそこなんです。資産価値をもつ、シンプルで組み合わせることが可能なコンクリートによってブランディングができないか考えています」


ほとんどの建築に用いられていながら、普段はあまり意識することのないコンクリートという素材。その進歩や応用の可能性はデザインと切り離せません。未来におけるUSMとのコラボレーションにも、さまざまに想像を膨らませることができます。